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「計画」よりも「手持ちの武器」を。リスクを抑えた起業の新しい定石

キャリアの節目を迎え、ご自身のこれからの働き方や、長年温めてきたアイデアの事業化を考え始めた時、多くの実務家が最初に直面する壁があります。

それは、「完璧な事業計画」を作らなければならないという思い込みです。

長年ビジネスの最前線で活躍されてきた方ほど、市場分析を行い、競合を調査し、収支計画を立て、資金を調達する……という「正攻法(コーゼーション)」のロジックに縛られがちです。しかし、不確実な時代において、また人生の後半戦を見据えた起業において、そのアプローチは時にリスクを高め、最初の一歩を重くしてしまいます。

当支援では、これからの起業支援において、ある一つの思考様式をベースに置いています。それが、優れた起業家が実践する「エフェクチエーション(実効理論)」です。

今回は、私たちがなぜこの理論を重視し、支援の核としているのか。その理由を紐解きながら、これまでに積み上げてきた「資産」を活かし、しなやかに新しい一歩を踏み出すための視点をお伝えします。

目次

予測するのではなく「コントロール」する

従来のビジネス手法(コーゼーション)は、「目的」を定め、それを達成するための手段を逆算するアプローチでした。これは地図のある場所へ最短距離で向かうには有効ですが、地図のない荒野を行くような新規事業や、個人の新しい挑戦においては、「予測不能な未来」に足止めを食らう原因となります。

対して「エフェクチエーション」は、「未来は予測できないが、自らの行動によってコントロール(創造)することはできる」という世界観に基づいています。

これは、熟達した飛行機のパイロットが、予測不能な乱気流の中でも計器と操縦桿を握り、状況に応じて航路を修正しながら目的地(あるいは当初とは違う安全な場所)へ着陸する姿に似ています(飛行機のパイロットの原則)。

私たちには、若手起業家にはない「経験」という操縦技術があります。予測に頼るのではなく、手元にあるハンドルを握り、状況をコントロールしていく。この姿勢こそが、セカンドキャリアの不確実性を楽しむ鍵となります。

まず「手中の鳥」を確認する

何かを始めようとする時、「何が足りないか(資金、最新技術、若さ)」を数えていませんか? エフェクチエーションでは、まず「手元に何があるか(手中の鳥の原則)」からスタートします。

あなたには、以下の3つの強力な資産がすでにあるはずです。

  1. Who I am(私は誰か): あなたの価値観、性格、好みの傾向。
  2. What I know(私は何を知っているか): 専門スキルだけでなく、趣味の知識、人生経験から得た独自の洞察。
  3. Whom I know(私は誰を知っているか): 長年の仕事で培った人脈、信頼関係、友人のネットワーク。

これらに加え、組織や社会で見過ごされている**「余剰資源(Slack)」**にも目を向けてみましょう。例えば、企業の遊休設備や、活用されていない技術、あるいはご自身の「空いた時間」や「使っていない部屋」も立派な資源です。

足りないものを外部から調達してリスクを負うのではなく、今あるものを組み合わせることで「何ができるか」を考える。これが、大人の起業の第一歩です。

リスクは「許容できる範囲」で負う

ご家族やご自身の老後資金を守ることは、ファイナンシャルプランニングの観点からも絶対条件です。しかし、挑戦にリスクはつきもの。そこで重要になるのが「許容可能な損失の原則」です。

「どれだけ儲かるか(期待リターン)」ではなく、「最悪の場合、いくらまでなら失っても人生設計に影響がないか(ダウンサイドリスク)」を基準に意思決定を行います。

  • このプロジェクトに投じる時間は、半年間なら無駄になっても良いか?
  • この初期投資額は、趣味に使ったと考えて諦めがつく金額か?

「命がけのジャンプ」をする必要はありません。失っても痛手にならない範囲で小さく実験を繰り返すこと。それが、失敗を「致命傷」ではなく「学習の機会」に変えてくれます。

4. 予期せぬ事態を「レモネード」に変える

アメリカには “When life gives you lemons, make lemonade.”(人生が酸っぱいレモンを与えるなら、甘いレモネードを作ればいい)という諺があります。

ビジネスプラン通りに進まないこと、トラブルや予期せぬ変化は必ず起きます。計画重視のアプローチでは、これらは「避けるべきリスク」ですが、エフェクチエーションでは「活用すべきチャンス(レモネードの原則)」と捉えます。

トラブルへの対処能力や、逆境を乗り越える胆力は、これまでのキャリアの中で十分に鍛えられてきたはずです。偶然の出会いや想定外の出来事を排除せず、「この状況を使って、新しく何ができるか?」と発想を転換する。その柔軟性が、独自のビジネスモデルを生み出す源泉となります。

5. 「売り込み」ではなく「問いかけ」で仲間を作る

一人で全てを抱え込む必要はありません。「クレイジーキルトの原則」は、目的を共有できるパートナーと協力し、手持ちの手段を拡張することを説いています。

ここで大切なのは、完成した商品を一方的に「売り込む(Selling)」ことではなく、未完成のアイデアを提示し、相手に「問いかける(Asking)」ことです。

「私の手持ちのカードはこれです。あなたのカードと組み合わせたら、何ができそうですか?」

このように対話を重ねることで、相手(顧客やパートナー)がコミットしてくれれば、それは単なる取引相手以上の存在となります。多様な端切れ布を縫い合わせて美しいキルトを作るように、様々な人々との関わり合いの中で、事業の形を柔軟に変化させていくこと。それが、結果として市場を創造することに繋がります。

人生の後半戦こそ、エフェクチエーションの出番

エフェクチエーションは、決して「行き当たりばったり」の手法ではありません。自分のアイデンティティ(Who I am)を核にし、コントロール可能な範囲で現実的な一歩を踏み出し続ける、極めて理性的なアプローチです。

私たちには、長い時間をかけて磨いてきた「自分は何者か」というアイデンティティがあります。そして、失敗してもそこから学び、修正する知恵もあります。

「綿密な計画」よりも、まずは「手持ちの武器」を棚卸ししてみませんか? あなたのその経験は、新しい価値を生み出すための、最高の「手中の鳥」なのですから。

biz-lifeでは、このエフェクチエーションの思想をベースに、あなたのキャリア(ビジネスプラン)と資産(ライフプラン)の両面から、あなたらしい「次の一手」を共に考えます。

参考書籍

本記事でご紹介した「エフェクチエーション」について、より深く学びたい方におすすめの一冊です。前半の理論解説に加え、後半では著者の一人である中村龍太氏の実践経験が詳細に語られており、最初の一歩を踏み出す勇気をくれる良書です。

『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』

  • 著者:吉田 満梨、中村 龍太
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 発売日:2023/8/30

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